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コラムVol.15 事務所衛生基準規則

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コラムVol.15 事務所衛生基準規則

 12月に入り寒さも日に日に増してきて、いよいよ冬本番といった気候になってきました。

建物やオフィス内でも暖房機器が利用され、加湿器や空気清浄機などがあるのが当たり前のように、ひと昔前とは比べものにならないほど快適な環境下で仕事が出来るようになりました。ガマンを超えた暑さや寒さ、カラカラだったりジメジメだったり不快に感じる湿度、なんとなくよどんだ空気の室内で仕事をするのは集中力や思考力を低下させ、時には判断ミスによる事故を誘発しかねません。今や職場の環境を適切に快適に管理することは会社の役目として無視できない事柄になっています。

 

実はこうした事務作業を行う事務所の環境に関して、歴とした労働安全衛生法という法律の規定のもとに「事務所衛生基準規則」(昭和四十七年労働省第四十三号)というものが設けられており(以下「規則」とします)、事業主が講じなければならない様々なことが定められています。今回のコラムではそのうちのいくつかをご紹介します。

 

まず、普段はあまり意識しないでしょうが、事務所の容積に対して従業員1人当たりが占める空間の割合が決められていて、事務所の容積に対して1人当たり10立方メートル以上を確保しなくてはなりません。建築基準法施行令第二十一条において居室の天井は2.1メートル以上と決められているので、仮に平均的な天井の高さを2.4メートルとすると、およそ2.1メートル四方の床面積を1人に対して確保しなくてはならないことになり、あくまで部屋全体に対しての割合の問題ではありますが、実際に計ってみて縦横高さがそれぞれ2メートル以上となるとラジオ体操ができるくらい隣の人と間隔が出来る結構な広さだと感じると思います。隣の人との距離があまりにも近すぎたり、狭い部屋で密集していたりするとなかなか仕事に集中しづらくなるでしょう。

 

次に最近特に注目されている二酸化炭素(CO2)濃度についてです。大多数の人が今まであまり意識したこともなかったと思いますが、コロナ禍において密になるのを防ぐ指標として注目され、最近では測定器の計測値に基づき換気をおこなうイベント会場や施設が増えてきています。実は規則ではすでに施行時より、機械式の換気設備が備えられた事務所においては100万分の1000(1000ppm)以下であるようにしなければならないよう定められています。冷房の効いた真夏時や真冬の時期に窓を開けての換気はついつい怠りがちになってしまいますが、1000ppmという値は実際に計ってみると決して余裕のある高い限度値ではなく、部屋の広さや人数にもよりますが、換気設備を常時稼働させていてもだいたい1時間おきに空気を入れ替えないと維持できない数値です。また、最近では温暖化防止の観点から省エネ対策として夏冬のエアコンの設定温度、特に空気が乾燥する冬場のインフルエンザやウイルス性感染症対策のための湿度管理を気にするようになってきましたが、これらも施行時より規則において、気温が17度以上28度以下、湿度が40パーセント以上70パーセント以下になるよう努めなければならないと定められています。

 

このほかに照明の明るさでは精密作業をする場合300ルクス以上、普通の作業は150ルクス以上、粗な作業は70ルクス以上と定められ、一定以上の明るさの基準に適合させなければならず、また照明設備に関して事業主は6ヵ月以内ごとに一回、定期に点検しなければなりません。切れたら取り換える、一年に一回大掃除でキレイにするだけでは管理不足となってしまいます。

 

この規則では事務所の中だけに限らない清潔面でも規定がされています。洗面設備を設け、飲用に供する水、その他飲料を十分に供給する必要があり、またトイレを男女別々にするのはもちろん、男性労働者60人以内ごとに一個以上大便器を備え、小便器は30人以内ごとに一個、女性用は20人以内ごとに一個以上とするなど、細かく数も決められています。

 

また、万が一、従業員が仕事中に体調や気分が悪くなったりしたときのために、常時50人以上または常時女性30人以上の従業員を使用する場合は男女別の休養室を設けなくてはならないことも定められています。

 

このほかの規則については職場の衛生管理者や衛生責任者が詳しいので興味のある方は聞いてみてもらうとして、安全衛生法およびこれに付随する労働省令は、戦後の高度経済成長期に多くの大規模工事がおこなわれ、また生産技術の革新による労働環境の変化にともなって労働災害が多発したためにその対策、防止を目的としておよそ50年前に法整備されたものです。従っていささか時代遅れなところも否めないですが、従業員が安心して働ける職場環境を整備・維持することは仕事の効率・生産性を上げ、しいては会社の業績を向上させる大事な要因となります。テレワークの浸透によりスモールオフィス化してコストを下げる会社も増えてきていますが、新しいテナント先を選ぶ際に見落としがちな事柄も少なくありませんし、逆に在宅勤務を解除して、一堂に集まって業務をこなす日常が戻ってくるこの機会にあらためて事務所の環境整備、維持が出来ているかを考察してみてもよいのではないでしょうか。

 

 

 

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