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コラムVol.16 働き方改革という名のもとに

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コラムVol.16 働き方改革という名のもとに

昨今、働き方改革という名のもとに労働法関連の改正が相次いでいます。厚生労働省のホームページなどに成立された法案が随時更新され掲載されてはいるのですが、成立から施行までに時間が空いていたり、大企業と中小企業でそれぞれ施行時期が違っていたりと、何がどう変わったかを逐一知ることは普段余程意識していない限りなかなか出来ません。
令和4年も働く人たちに関係した法改正がいくつも控えています。今回のコラムは割と影響が大きいだろうと思う順にそれらを簡単に解説していこうと思います。

1、社会保険適用枠の拡大
現状、501人以上の被保険者がいる企業で働く短時間労働者(週20時間以上の労働時間、月額88,000円以上の給与、雇用期間が1年以上見込まれること(今回の改正で2カ月以上に短縮されます)、学生でないことの4つの要件を満たした労働者のこと)は社会保険に加入することが義務付けられていますが、令和4年10月より101人以上の企業に加入義務が課せられ、令和6年には51人以上の企業に、とその適用枠が拡大されます。これは、今後の社会・経済の変化を年金制度に反映し、働き方の多様性に対応すべくより多くの人が社会保険に加入できるようにし、将来もらえる年金が増えるという大義名分が掲げられていますが、実際のところはこれ以上保険料率を上げると加入者や事業主の反発が避けられないので、加入者数を増やして不足する社会保障費に充てようというのが本音でしょう。会社の規模が小さくなればなるほど、いわゆるパートタイム労働者を使用している割合は多く、今まで配偶者の扶養の範囲内で働いていた人たちが突然社会保険に入れと言われたら、どのような選択肢があるでしょうか。先の述べた4つの要件を満たさないようにするために働く時間を減らし収入水準を下げるとすれば、ただでさえ人手不足のこの時代に現有労働力の低下が追い打ちをかけるでしょう。では扶養から外れて労働時間を増やし、手取り減を解消するため社会保険の本人負担の保険料分を多く稼ぐとしたら、必然的に保険料の半分の会社負担分が増えます。そうなると労働時間を増やして得られる成果よりさらに生産性を上げないと、労務コストが増大し経営を圧迫する危険性すら出てきます。さらに以前のコラムでも説明しましたが扶養を外れると配偶者手当が支給されなくなるケースがほとんどなので、世帯分の収入源も給与で賄ってあげなくてはならなくなります。確かに、少子高齢化が進むなかで増大する社会保障費の財源問題は深刻ではあります。ですが、単に被保険者の保険料率を上げることによる影響と比べて今回の被保険者の適用拡大は、より多くの企業や働く人たちの混乱を招くことは想像に難くないでしょう。かつてパートタイム労働者は「景気のスタビライザー」ともてはやされ、いわゆる正社員を守るための犠牲のような位置づけをされていましたが、現代の働き方の多様性の中において仕方なくパートタイム労働に従事している人がどれほどいるのでしょう。自らが望んだ働き方をしている人たちに対して「不利な扱いを受けている」、「正社員と同等の権利を与える」などという名目で制度を変え、社会保険加入という実利に乏しい優遇措置を与えることが本当に社会のためになるのでしょうか。とは言っても法律は可決され施行を待つばかりですから、準備をしなくてはなりません。企業はどういう対応を取るべきか、該当する短時間労働者は何を選択すれば良いのかを早急に考えなければなりません。ですが、残念ながら今のところこれといった名案は浮かびません。一時期、「全員を正社員化」した企業がクローズアップされていましたが、自前の保育所を整備したりワークシェアを可能にする人員配置をするなど、よほど体力のある企業にしか実行できないプロセスが必要です。待機児童問題も一向に解消せず、預けられたとしても子供の体調が悪ければ仕事を休んで看病をしなければなりません。ワークシェアリングもできる職種とできない職種があることぐらい誰でも分かることでしょう。それを単なる従業員数で一括りにし、社会保険の観点だけ論じて施行される今回の内容は、おそらく令和4年度の法改正の中で最もインパクトの大きい案件になると思われます。

2、パワハラ防止法
この法律はすでに令和3年6月より大企業に対して施行されていましたが、令和4年4月よりそれまで努力義務だった中小企業にも適用範囲が拡大されます。防止、啓発活動はもちろんのこと、苦情や相談窓口をきちんと整備しているかどうかに監督官庁はスポットを当てているようです。匿名性が守られ、通報後の不利益扱いが起きないよう対応できる窓口を整備しているかが問われることになるでしょう。24時間365日WEB上で受付対応が出来て該当案件があった時に通知してくれる外部委託型の通報窓口サービスの導入などを検討するのも良いかもしれません。今般、社員がハラスメントをおこしたら職場から一発退場してもらうという厳しい姿勢でいないと、この手のトラブルは無くならないと思います。当事者もさることながら企業イメージを著しく損なうリスクは早急に対応策を講じなければならない案件です。

3、女性活躍推進法の改正(正式名称「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」)
あまり馴染みのない法律名かもしれませんが、平成29年4月よりすでに施行されている法律で適用要件が令和4年4月より改正されます。今までは301人以上の社員がいる事業主は状況を把握し、課題を分析し、女性の職業生活における活躍推進の目標や計画を定め、その取り組みなどに関する計画書を所轄の労働基準監督署に届け出ることが義務付けられていましたが、これが努力規定だった101人以上の会社にも義務付けられます。

4、民法改正により18歳から成人に
令和4年4月よりこれまで20歳以上だった成人年齢が18歳に引き下げられます。働くことにおいて未成年であることの制約は年少者や女性と違ってほとんどないのですが、一つだけ気を付けなければならないのは雇用契約を結ぶ際に親権者の同意が必要なくなることです。いままでは未成年者が結んだ契約は将来に向かって親権者がその内容を破棄することができましたが、改正以降はそれができなくなります。雇用契約締結時にきちんとした内容を18歳にもわかるように丁寧に説明する社会的責任がさらに増すことになるでしょう。話がそれますが、18、19歳をターゲットにした悪徳商法などの犯罪に巻き込まれるケースが増えるのではないかと心配もあります。ちなみに酒、たばこ、ギャンブル等は20歳以上のままです。

5、傷病手当金の支給期間の通算化
令和4年1月よりいままで支給開始日から継続した1年6カ月目までが傷病手当金の支給限度でしたが、給与の支払われた日を除いて通算化し、がん治療などをしながら仕事も両立する人などに向けて、休んで給与の出なかった日を足して通算で1年6カ月分まで支給されることになります。

6、育児・介護休業法の改正
令和4年4月より施行されるのですが、かいつまんで大きなポイントを一つだけ挙げておきますが、妊娠・出産を申し出た従業員に育児休暇の取得を会社が個別に働きかけることが義務化されます。怠った場合、会社名の公表という罰則もあります。もちろん、男性従業員に対しても同様です。

このほか雇用保険の加入要件緩和なども予定されていますが、総じてひと昔前には考えられなかったような法律の成立・改正が令和4年も行われます。少子高齢化、人手不足、まだまだ先の見えないコロナ禍などを背景に、働き方の多様性は絶えず変化、枝分かれしています。それらすべてのことに対応するのはとても難しいことですが、かといってないがしろにしてしまうと結局自分たちの会社が不利な立場に追い込まれることになるのは明白です。ひとつひとつ丁寧に対応していくこと、それらを実行・実現していく力をつけていくことの積み重ねが会社を発展させる原動力のひとつとなり、しいては社会全体が成熟していくことにつながっていくのではないでしょうか。

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