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コラムVol.35 睡眠とメンタルヘルス

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コラムVol.35 睡眠とメンタルヘルス

はじめに

 令和元年「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)によると「1日の平均睡眠時間について、6時間未満の者の割合は、男性 37.5%、女性 40.6%、性・年齢階級別にみると、男性の30~50歳代、女性の40~50歳代では4割を超えており、「睡眠全体の質に満足できなかった」人の割合は男性 21.6%、女性22.0%」となっています。

 みなさんの睡眠はいかがでしょうか。寝苦しい季節となりなかなか寝付けない、などありませんか。睡眠は、体だけではなくメンタルヘルスの不調にも影響を及ぼします。今回は、睡眠の役割やメンタルヘルスへの影響についてお話したいと思います。


目次

1.睡眠の役割

 そもそも睡眠はなぜ必要なのでしょうか。

睡眠は脳を休めて記憶の整理、体内の修復・疲労回復、体内ホルモンの分泌、自律神経を整えてストレスからの回復・耐性の向上など、さまざまな役割を果たしています。そのため、質の悪い睡眠は日中の眠気や意欲低下だけではなく、記憶力や集中力、疲労回復、メンタルヘルスにも影響を与えてしまいます。

2.睡眠サイクル

 みなさんも耳にしたことがあると思いますが、睡眠にはノンレム睡眠(深い睡眠)とレム睡眠(浅い睡眠)があります。眠りのサイクルはこのノンレム睡眠とレム睡眠とが約90分周期で繰り返されると言われています。(個人差があります)
 眠りの深いノンレム睡眠では脳が休息状態となり、脳や体の疲労回復、記憶の定着といった役割をします。また、レム睡眠は夢を見る浅い睡眠のことで、体は休んでいますが脳は働いている状況です。このノンレム睡眠とレム睡眠は記憶の整理や定着にも関係していると言われています。

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3. 睡眠とメンタルヘルスの関係

  睡眠の役割で触れたとおり、睡眠は集中力や記憶力にも関係するため、睡眠不足になるとミスが増えるなど日々の仕事や生活にも支障が生じたりします。また、下記のようなメンタルヘルスにも影響を与えてしまいます。

①感情のコントロールに影響

 睡眠不足になると、物事を理論的に考える、集中、意欲や感情の調整をする脳の前頭葉の働きが低下すると言われています。そのため、ちょっとしたことでイライラする、怒りっぽくなるなど、感情のコントロールが低下し情緒不安定になったり、抑うつ的になりネガティブな感情に敏感になる可能性があります。

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②自律神経に影響

 自律神経は、昼間活動している時には交感神経が優位に、寝ているときには副交感神経が優位になりリラックスモードになります。寝不足になると、交感神経が優位になっている状態が続いてしまうため、不安感や抑うつ感などを引き起こしやすくなります。

③ストレスに影響

 実は睡眠はストレスとも関係が深いと言われています。人はストレスを感じると、体内でストレスと戦うホルモンを分泌します。ストレスと戦う大切なホルモンですが、継続的に分泌されると脳にも影響を及ぼしてしまいます。ストレスと戦うホルモンの分泌は、起きる前後に最大になり日中を支え、睡眠時に抑制されますが、寝不足になることによりホルモンの分泌が多くなってしまいます。そのため、記憶力の低下、不安感、抑うつ状態に繋がるリスクとなります。

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4.良い睡眠をとるためのプチ習慣

 「体内時計」という言葉を聞いたことがありませんか。人は1日周期でリズムを刻む体内時計を備えています。体内時計の働きで昼は活動状態、夜は眠くなる状態になり、時計の時間は、「光と朝食」によってリセットされると言われています。この体内時計がずれることで不眠に繋がります。

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①日の光を浴びる

 朝起きたらカーテンを開けるなど、朝のうちに日の光を浴びることで体内時計はリセットされます。体内時計がきちんと働くことで夜、自然と眠くなります。曇りでも室内より外は明るいため、なるべく朝のうちに外に出て日の光を浴びるようにしましょう。

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②朝食は大切

 みなさん朝食はきちんと取っていますか。時間がないから・・・朝食より寝ていたい・・・など取らない方も多いかもしれません。しかし、体内時計は朝食によってもリセットされます。

 睡眠には「メラトニン」という眠気を誘うホルモンが必要ですが、メラトニンの分泌は、体内時計からの信号で昼間は止まり、起きてから14~16時間後くらいに、また分泌されると言われています。体内時計の乱れは眠気を誘うメラトニン分泌の低下に繋がるため、朝食を食べてリセットし乱れを整えましょう。

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③お茶・コーヒーは寝る4時間前までに

 カフェインの覚醒作用は、口に入れてから4~5時間持続すると言われています。そのため、お茶やコーヒーを飲むのは寝る4~5時間前までにすると良いでしょう。

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④寝る2~3時間前までに食事を済ませる

 食べ物の消化には2~3時間必要です。食べ物の消化が終わっていないと、寝ている間も胃腸はフル回転で働いています。そのため、夜中に目がさせて睡眠の質が悪くなってしまいます。寝る2~3時間前までに食事を済ませるように心がけてみましょう。夜どうしてもお腹が空いてしまったら、牛乳など胃腸の消化に良い軽いものを少しだけ取ると良いでしょう。

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⑤寝室は明るすぎないように、寝る前の携帯やパソコンは避ける

 部屋は暖色系の抑えた光で明るすぎないようにしましょう。また、寝る前に携帯やパソコンを見るのは良くないと言われていますが、なぜでしょうか。蛍光灯の白い光、携帯やパソコンなどの光にはブルーライトが含まれています。このブルーライトは、睡眠を誘うホルモン(メラトニン)を抑制してしまうため、寝付けなくなることに繋がるからです。


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 睡眠は体調だけではなくメンタルヘルスや日常生活、仕事にも影響を及ぼします。なかなか暑くて寝付けない日々が続きますが、質の良い睡眠のために、まずは自分でもできそうなプチ習慣をやってみてはいかがでしょうか。

 

資料
厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査結果の概要」、「こころの耳」
人間総合科学大学 「ストレスと健康」
武田薬品株式会社「不眠と体内時計について考える」

臨床心理士・公認心理師 高橋 美千代

 

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