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コラムVol.32 部下とのコミュニケーションに役立つ傾聴力

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コラムVol.32 部下とのコミュニケーションに役立つ傾聴力

はじめに

 4月から働き始めた方も1か月が過ぎ、上司の方は新しいスタッフとコミュニケーションを深め、信頼関係を築いていきたいと考える時期ではないでしょうか。また、もしかしたら「話しかけてみたけど、なかなか本心を話してくれない」「どうしたら話を引き出せるのかな」と悩む時期でもあるかもしれません。

仕事やコミュニケーションを円滑に進めるためには、まずは信頼関係を築いていくことが重要となります。

では、コミュニケーションを通じて、どのように信頼関係を築いていくのでしょうか。みなさんも「傾聴」という言葉を耳にしたことがあると思いますが、相手と信頼関係を築いていくためには「傾聴」がとても重要となります。もしかしたら、「自分は昔から相手の話をきちんと聴いているよ」と思う方もいるかもしれませんが、今回は信頼関係を築く「傾聴」の姿勢についてご紹介したいと思います。



目次

1.ロジャースの三原則

 カール・ロジャースはアメリカの有名な心理学者です。「ロジャースの三原則」は、心理職であればカウンセリングの基本的姿勢として学ぶ重要な内容と言えます。話を傾聴する姿勢として、カール・ロジャースは下記の3要素を挙げています。コラム用画像_202305_1.jpg

①共感的理解

 相手の話を相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとすることです。

人は、100%相手の立場に立って理解することは非常に難しいことです。だからこそ、理解しようと考えて相手の話を聴くことが大切になってきます。

共感的理解による傾聴とは、相手の立場になって共感しながら、相手を理解しようという気持ちを持って話を聴くということです。

②無条件の肯定的関心

 相手の話を善悪の評価、好き嫌いの評価を入れずに聴くことです。
話をしていると、ついつい自分の価値観や考え方を相手に押し付けてしまうことがあります。無条件の肯定的関心による傾聴とは、人はそれぞれ考え方や価値観が違うことを理解し、自分の考えや価値観を押し付けず、相手の話を否定せず、なぜそのように考えるようになったのか、その背景に肯定的な関心を持って聴くということです。

③自己一致

 例えば、話が分からないのに分かったと相手に伝えるのは自己一致をしていない状態と言えます。

自己一致による傾聴とは、話が良くわからない時は分からないことを伝え、真意を確認し、聴く側が相手に対しても、自分に対しても真摯な態度で話を聴くということです。

2.傾聴のためのスキル

 傾聴のスキルにはどのようなものがあるのでしょうか。いくつかご紹介しますが、もしかしたら皆さんも知らず知らずのうちに使っているスキルがあるかもしれません。

①うなずき、あいづち、視線

 相手の話を遮らずにバリエーションのあるうなずき、あいづちを入れて、肯定的に関心をもって話を聴くことが大切です。また、相手が一生懸命に話をしているのに、視線を書類に落としていたり携帯を見ながら聴いていたりしたらどうでしょうか。おそらく、相手は「この人は自分の話をきちんと聴いてくれない。自分の話なんてどうでもいいんだな」といった気持ちを抱くかもしれません。仕事で忙しい中でも、きちんと視線を合わせて話を聴くことが大切です。
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②ペーシング

 ペーシングとは、話すペース、声のトーン、声の大きさ、呼吸、あいずちの頻度などを相手のペースに合わせてコミュニケーションをすることです。ペーシングは相手に安心感などを与え信頼関係を構築するスキルと言われています。前回のコラム「アサーション(後編)」で非言語的コミュニケーションについてご紹介しましたが、コミュニケーションは言語だけではなく、非言語も相手との信頼関係を築くためには重要となります

③ミラーリング

 ミラーリングとは、「ミラー」の名の通り、姿勢や表情などの非言語を真似することで、視覚的情報を使ったものです。

しかし、なんでもかんでも真似をしてしまうと「バカにしているのかな」と思われてしまうため、相手が気づかない程度にするのがポイントです。

例えば会議などで、話す相手が前のめりで一生懸命に話をしている時には、自分も少し前のめりで相手の話を聞いてみる。相手が話をしながらニコっと笑顔になったら、自分もニコっと笑顔になるなど些細なしぐさとか身振りを真似することです。

毎回すべてをミラーリングするのではなく時々入れる、相手より数秒遅れてするなど、自然に見えることが大切です。
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④感情の反射・言い換え

 話をしてくれた内容について、相手の感情を評価などを加えずに相手に伝え返すことです。重要なキーワードを伝え返すことで、相手はきちんと話を聴いてくれている、共感してくれているという気持ちになります。

例えば友人が「昨日、会社で●●●ということがあって、仕事が終わらず遅くまで残業になり本当に大変で辛かった」と話をした時に、友人に対して「そうだったんだね。昨日は、遅くまで残業になって本当に辛かったね」と言い換えて伝えます。重要だと思った「遅くまで残業」「辛かった」というキーワードを入れて要約して返しています。

この文章の中には、話を聞いた側の評価や価値観(例えば、私もいつも残業しているから仕方ないよ、とか、残業しなくても良かったんじゃない?など)は入っておらず、相手の話した言葉のみを言い換えをして伝えています。そうすることによって、相手はきちんと自分の話を聴いてくれているんだ、共感してくれたんだ・・・という気持ちになります。


今回、ご紹介した「傾聴」は、部下との信頼関係を築き本音を聞き出すことだけに限らず、チームで仕事をする時の信頼関係の構築、商談などビジネスでも活用できる場面がたくさんあります。

なかなか日々の忙しい仕事の中で傾聴することは大変かもしれませんが、人間関係を築いていくこの時期は、傾聴力を発揮して「話をしたらきちんと聴いてくれた」「また相談しよう」「安心して話ができる」「自分の話に興味をもって聞いてくれた」と相手が思うような姿勢で話を聴いてみてはいかがでしょうか。


参考資料 :厚生労働省 「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」
臨床心理士・公認心理師 高橋美千代

 

 

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