コラムVol.26 ストレスチェックの課題【前半】
はじめに
ストレスチェックは、2015年12月より労働者が50名以上いる事業所で実施することが義務づけられたことで、みなさんの身近なものになってきたのではないでしょうか。しかし、「会社から言われるから何となく受けている」、「結果をどのように活用してよいのか分からないなど、受ける側も企業側も色々と感じていることがあるかもしれません。
ストレスチェックを有効なものにするにはどうしたらよいのでしょうか。今ストレスチェックが抱えている課題やストレスチェック結果の活用について、2回に分けてお話をしたいと思います。
目次
ストレスチェックは何のために実施するのか?
毎回、みなさんはどのような気持ちでストレスチェックに回答されていますか?「仕事が忙しかったので何となく回答してしまった・・」、「受けても意味があるのかなと疑問に思いながら回答した・・」などといったことはなかったでしょうか。ここで改めてストレスチェックの2つの大きな目的を確認してみましょう。
- 回答した人に対して自らのストレスの状況について気づきを促すことで、メンタルヘルスの不調のリスクを低減させる
- 結果を集団分析し環境改善に繋げることで、労働者がメンタルヘルスの不調になることを未然に防ぐ
となっています。これらの目的から、ストレスチェックの実施は企業側にも受ける側にもメリットがあることが分かります。
ストレスチェックの意識調査の結果は?
厚生労働省ではストレスチェックの効果検証について結果をまとめています。「実施率については制度施行以降、年々上昇しており、2020年度では8割の事業所が実施していた」と報告しています。しかし、まったく課題が無いわけではありません。では、どのような課題があるのでしょうか。
①ストレスチェックを受ける必要性が理解されていない
アンケート調査では「回答した労働者の半数以上がストレスチェック制度の効果として、自身のストレスを意識することになった」と回答しています。
しかし、その反面、直近1年度に実施されたストレスチェックを受けなかった人の理由も報告されました。
令和3年度厚生労働省委託事業 ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業 報告書より
上記のグラフを見て分かるように受けなかった人の理由は
- 受検の必要性を感じなかった
- 受検を忘れていた
- 実施体制に関する情報周知がなかった
- 受検がどのように役立つのか分からなかった
- 結果を会社に知られるのではないかと不安
などがあげられ、「受検の必要性を感じなかった」という理由が1番高くなっています。受けなかった理由を見ながら「その気持ち分かるな」と感じた方もいるかもしれません。理由全体を見ると「ストレスチェックがどのような制度で何のために実施され、どのように結果を役立てるのか」といった点が、受ける側に十分に理解されていないことが読み取れます。
②高ストレス者が医師に申し出る割合が低い
ストレスチェックの結果、「大半の事業所で受検者に占める高ストレス者の割合は5~20%と言われていますが、高ストレスとされた人達の中で医師の面接指導を受けた割合は5%未満の事業所が多くなっている」と報告されています。
みなさんもご存じのように高ストレスとなった場合、事業者に申し出ることで医師の面接指導を受けることが可能となっています。しかし、実際に医師の面接指導を受けている高ストレス者の割合が低いことが分かります。
厚生労働省「ストレスチェック青銅の効果的な実施と活用に向けて」より
また、高ストレス者とならなかった人でも、返却された結果をどうしたらよいのか分からずそのままにしている人もいるのではないでしょうか。これではせっかくストレスチェックを受けても「やる意味あるのかな?」といった気持ちに繋がってしまうかもしれません。
③集団分析結果の活用が上手くできない
個人のストレスチェックの結果を一定規模のまとまりごとに集計して、その結果を集団という単位で解釈することを集団分析と言います。集団分析は努力義務となっていますが、なぜ、そのようなことをするのでしょうか。これは、集団分析をすることで、どの部署でどのようなことがストレス因子(仕事の量的負荷、仕事のコントロール度など)となっているかなど、課題が可視化されることで職場環境の改善に役立てることができるからです。
アンケートによると、「ストレスチェック制度を実施している事業所のうち、7~8割は集団分析に取り組んでいる」と報告されています。もちろん、その結果を活用して環境改善に取り組んでいる企業も増えてきていますが、「集団分析までは実施していない」、「どのように分析結果を読み解き活用していくのか分からない」といった企業も少なくありません。この集団分析の結果を活用することで、働く人たちのメンタルヘルスの悪化を防ぎ、仕事の質の向上や離職率を減らすといったことに繫がっていきます。
今回、取り上げた3つの課題はストレスチェックを有効なものにするために大切な点と言えます。次回のコラムでは、これらの課題を踏まえ具体的にどのようにストレスチェックを活用していくのかについてお話をしたいと思います。
参考:令和3年度 厚生労働省委託事業 「ストレスチェック制度の効果検証に関わる調査等事業報告書」
厚生労働省 「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」
臨床心理士・公認心理師
高橋美千代