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コラムVol.24 ストレス反応のプロセスとストレスコーピング【後半】

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コラムVol.24 ストレス反応のプロセスとストレスコーピング【後半】

 前回のコラムでは、ストレッサー(ストレス要因)がストレス反応に直結するのではなく、どのようにその出来事を認知・評価して、対処するかが大切となること。そして、ストレスコーピング(対処行動)が上手くいき、自分にとってストレッサーが脅威にならないと判断されれば、ストレス反応は生じない、もしくは一過性の健康問題が生じたとしても程度は低くなるということをお話しました。

 ストレスコーピングは、①ストレッサー、②認知的評価・対処能力、③ストレス反応の3つに働きかけることが可能で、コーピングの内容によって働きかける場所が異なってきます。今回は、認知行動療法の基本モデルの利用も含め、具体的な方法をいくつかご紹介したいと思います。


目次

ストレッサーに働きかける方法

 ストレッサー自体の除去・軽減を図る方法です。ストレッサー自体に働きかけることになるので、「問題になっていることの解決」、「環境調整」などが考えられます。例えば、対人関係がストレッサーの場合、その対人関係の改善をすること。職場の部署がストレッサーとなっている場合は、上司に相談し部署移動など環境を調整することになります。 ストレッサー自体に働きかけることが可能なら有効な手段と言えます。

認知的評価・対処能力に働きかける方法

 認知的評価・対処能力は1で紹介したストレッサー自体の除去・軽減が難しい場合に有効とされ、具体的には「対処スキルの獲得」、「自己コントロール」、「ソーシャルサポート」、「認知の修正」などが考えられます。

<認知行動療法の基本モデル>
 「認知の修正」や「自己コントロール」に利用できる認知行動療法の基本モデルをご紹介します。

コラム用画像_202208_3.png 図1 認知行動療法の基本モデル

 人はある出来事・状況に対して、「認知/ものの捉え方」「気分・感情」「行動」「身体反応」の4つの反応があるとされ、図1のようにすべてが連動していると考えられています。どのようなことか、上記の図1に当てはめて「犬が怖い人」と「犬の好きな人」の例をみてみましょう!

コラム用画像_202208_3.png
図2 認知行動療法・基本モデル「犬が怖い人」

コラム用画像_202208_4.png
図3 認知行動療法・基本モデル「犬が好きな人」

 まず、「犬を散歩している人が前からやってくる」という点で出来事・状況は同様です。その状況に対して、図2の犬が怖い人の場合は『吠えられる』と認知し、『恐怖』という感情になり『心拍数があがりドキドキする、冷や汗をかく』といった身体反応を起こし、『逃げる、他の道を行く』といった行動を起こします。

一方、図3の犬が好きな人は、『可愛い』と認知し、『会えて嬉しい』という感情になり、『笑顔になる』といった身体反応が起こり、『犬に近寄る』といった行動を起こします。

2つの例で分かるように出来事・状況は同様であっても、人によって起こす反応は違ってきます。

 さて、少しだけ「犬が怖い人」の認知/ものの捉え方を変化させるとどうなるでしょうか?例えば、『飼い主さんがリードをしっかり持っているから大丈夫』と考え方を変化させることで、『安心』という感情になり、『冷や汗が少しドキドキする』くらいの身体反応になり、『すれ違うことができる』といった行動が考えられます。これは、「認知/ものの捉え方」を変化させたことにより、「気分・感情」「行動」「身体反応」が変化したことになります。

 「気分・感情」と「身体反応」は、なかなか自分自身でコントロールすることは難しいですが、「認知/ものの捉え方」と「行動」に働きかけることにより、ストレッサー自体の除去・軽減を図っていくことができます。これが、「認知の修正」というコーピング方法になります。皆さんも悩んでいることに対して「どうにかなるさ」と考えを変化させたことで、楽になったことはありませんか?これは、「認知/ものの捉え方」を変化させています。このように、知らず知らずのうちに皆さんもコーピングを実践しているのかもしれません。

 

ストレス反応に対処する方法

 イライラする、不安、不眠、仕事でのミスの増加など、すでに顕在化してしまったストレス反応に対して、働きかける方法になります。例としては、休息、睡眠、リラクゼーション、音楽を聴くなど、自分に合ったストレス発散行動になります。

 今回、ストレスコーピングの方法をご紹介しましたが、何がストレッサーになるのか。また、人によって有効なコーピングは違ってきます。例えば、「大好きなアイスクリームを食べる」、「喫茶店で1人になり本を読む」など簡単なことで良いので、ストレスを感じた時の対処方法を持つこと、さらにそのストレス発散方法に工夫を加えたりすることで、コーピングの選択技を増やしていくとよいでしょう。

臨床心理士・公認心理師
高橋美千代

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