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コラムvol.11 耳で“観る”テレビ

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コラムvol.11 耳で“観る”テレビ

普段、私たちが何気なく観ているテレビ番組。
ニュース、バラエティ、ドラマ、アニメなどさまざまな番組が存在するなか、主に聴覚や視覚に障がいのある方々にテレビをより楽しんでいただくための放送があることをご存知ですか?
聴覚に障がいのある方々を対象としたものに「字幕放送」、視覚に障がいのある方々を対象としたものに「解説放送」があります。
字幕放送は、ニュースやドラマのセリフ、ナレーションなどの音声情報を文字にして画面に表示する放送サービスのことで、解説放送は、音声だけでは伝えきれない映像の情報を副音声によるナレーションで伝える放送サービスです。

平成9年の放送法の改正により、テレビジョン放送事業者は字幕・解説放送番組をできる限り多く設けなければならないこととする放送努力義務が規定されました。
平成29年度に総務省が行った調査の実績では、「字幕放送」はNHK(総合)88.5%、NHK(教育)84.3%、在京キー5局(日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビ、テレビ東京)100%で、「解説放送」はNHK(総合)14.1%、NHK(教育)19.2%、在京キー5局15.2%となりました。
字幕放送は一般的になりつつありますが、解説放送は実績の通り、あまり知られていないというのが現状のように思います。

そこで今回は、まだまだ一般には認知度の低い「解説放送」について、完成までの順を追って記していきます。
まず、目を閉じてテレビ番組(アニメやドラマ)を観てみてください。
セリフやナレーションなどの音声だけではわかりづらいシーンが出てくると思います。
解説放送では、その“わからない”を副音声によるナレーションで補完的に説明(解説)をしています。
作業としては、物語の主要となるセリフ、SE(効果音)、BGMなどの音楽になるべくかぶらない隙間を探して、補完する言葉を当てていきます。具体的には以下のものが挙げられます。

◆「場面説明」…場所、状況の説明
◆「人物説明」…どういう人物であるかの説明(名前、見た目など)
◆「行動説明」…人物の表情、動作の説明
◆「文字説明」…画面の中の文字を読む(テロップ、手紙、外国語音声の字幕など)

次に、限られた隙間のなかでどの言葉がより物語に適した表現なのか、理解しやすい言葉なのかを熟考します。
「笑う」という解説を入れる場合、「にっこり笑う」「満足そうに笑う」「歯をむき出して笑う」「顔をくしゃくしゃにして笑う」などさまざまな言葉の表現が考えられます。
特に俳優やキャラクターの表情の演技は、音声だけでは伝わりづらいため、言葉選びが難しい部分です。
解説台本の執筆は、これらの言葉選びに加え、物語に集中できるちょうどいい解説量のバランスを心掛けて進めていきます。

また、“どういう映像がイメージできるか”ということも意識しています。
例えば「おいしそうなパンケーキ」と「バターがとろける分厚いパンケーキ」どちらがイメージしやすいと思いますか?
おそらく後者の方が鮮明にイメージできるのではないでしょうか。
「おいしそうなパンケーキ」と聞くと“生地がふわふわ”、“生クリームたっぷり”、“色とりどりのフルーツトッピング”など人それぞれのイメージが浮かんでしまいます。
「おいしそう」という主観的な解説では個人の誤ったイメージを与えかねないため、晴眼者(視覚に障がいのない人)と同じ思考で映像を感じられるように、客観的に事実を描写することを大切にしています。
その後は、完成した解説台本でナレーション収録を行い、言葉のアクセントや声のトーン、ナレーションのタイミングなどの確認を経て、放送に至ります。

解説放送は主に視覚に障がいのある方に向けて制作されたものではありますが、特別なものではありません。テレビを楽しむためのひとつとして一度、選択してみてはいかがでしょうか。
今回、解説放送について話してきましたが、業務に携わる者として、今後、解説放送対応の番組が“当たり前”に、そして“誰もが利用しやすいツール”となるように努めていきたいと改めて感じました。

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