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コラムvol.8 新卒者の初任給

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コラムvol.8 新卒者の初任給

厚生労働省が行った令和元年賃金構造基本統計調査結果の概要において、学歴別にみた初任給の額は大卒で210,200円、専門・短大卒で183,900円、高卒で167,400円となっており、年々上昇しています。

日本経済団体連合会と東京経営者協会が行った2020年度3月卒「新規学卒者決定初任給調査結果」の概要においても大卒事務系が218,472円、専門技術系が194,186円、短大事務系が184,318円、高卒事務系が171,955円と過去最高額になっています。2021年3月卒もおそらく上げ幅は小さいもののさらに金額は上がるものと思われます。この調査では初任給決定にあたってもっとも考慮したものが「世間相場」となっており、次いで「在籍者のバランスと新卒者の職務価値」、「人材を確保する観点」となっています。若年層の減少著しい労働市場の中で、人材の確保という一番の目的が既存の労働者のバランスを取るという理由に押さえられているのが印象的です。しかし、世間相場に抗って低くあるいは高くすることも、連綿と受け継がれてきた新卒採用のセオリーを崩すことは出来ないようです。

物価が上がっているのだから初任給も上がるのは至極当然に思えます。実際30年前の1982年の大卒初任給は127,200円でした。現在の物価価値に変換しても143,780円程度ですので、今の新卒者は恵まれている、となるのでしょうか。

実は30年前、すでに消費税が導入されており、その税率は3%でしたが、2021年現在は10%に上昇しています。物価上昇率もこの期間に約10%上昇しています。健康保険、厚生年金保険料も年々上昇しており、総支給額に対する割合は20%近く、手取り額はダウンし続ける一方です。退職金もこの頃の平均額と比べて現在は900万円ほど下がっており、銀行の金利に関しては比べようもないほど小さくなっています。

つまり、額面だけで判断するのは早計です。もし30年前と現在とを単純比較できるのなら、自由に使えるお金はむしろ30年前に比べて少なくなっていると感じるのではないでしょうか。

30年前の大卒者は今50代前半、現役バリバリで働く世代です。「今の若者は恵まれている」「初任給が高くてうらやましい」とは一概に言えないのかもしれません。先に挙げた経団連の調査では「前年据置」をした企業は50%を超えていましたが、少子高齢化が進むなか若者たちに上昇志向を持って社会に飛び込んできてもらうためには初任給の額面はこれからも上昇し続けるでしょう。しかしその上げ幅には限界があります。お金ではない何か別の働きがいを作ってあげることも大事な先達の役割なのかもしれません。

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